上場会社の社外取締役には、二つの基準があります。会社法が定める「社外性」と、東京証券取引所(東証)が定める「独立性」です。会社法の社外取締役であっても、東証の独立役員として届け出られるとは限りません。
東証の独立性基準は、2026年7月に見直されました。主要株主との関係などが新たに基準に加わり、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日以後、順次適用されます。
この記事では、会社法と東証の基準の違い、見直し後の独立性基準の中身、候補者を確認する際のポイントを、一次資料をもとに整理します。
社外性と独立性は別の基準
会社法上の社外取締役の要件は、会社法第2条第15号に定められています。主な内容は、就任前10年間に会社や子会社の業務執行取締役・使用人などであったことがないこと、親会社等の役職員でないこと、取締役などの配偶者・二親等内の親族でないこと、などです。
一方、東証の「独立役員」は、一般株主と利益相反が生じるおそれのない社外取締役または社外監査役をいいます。上場会社は独立役員を1名以上確保することが、企業行動規範の「遵守すべき事項」とされています。
会社法の要件は、主に「会社の内部や親族の関係にないか」を見ます。東証の基準は、それに加えて「取引先や株主などとの関係で、一般株主と利益がぶつからないか」を見ます。そのため、確認の範囲は東証の基準の方が広くなります。
| 項目 | 会社法の社外取締役 | 東証の独立役員 |
|---|---|---|
| 根拠 | 会社法第2条第15号 | 有価証券上場規程第436条の2、上場管理等に関するガイドラインⅢ5.(3)の2 |
| 主な視点 | 会社・子会社・親会社等の内部者や近親者でないか | 一般株主と利益相反が生じるおそれがないか |
| 取引先・専門家報酬 | 要件の対象外 | 主要な取引先、多額の報酬を得る専門家は不可 |
| 主要株主との関係 | 親会社等の関係を除き、要件の対象外 | 主要株主やその業務執行者などは不可(2026年7月の見直しで追加) |
| 手続き | 株主総会で選任 | 独立役員届出書を東証に提出 |
東証の独立性基準(見直し後)の中身
東証の「独立役員の確保に係る実務上の留意事項(2026年7月改訂版)」では、次のいずれかに該当する人は独立役員に指定できないとされています。
- 上場会社を主要な取引先とする者またはその業務執行者
- 上場会社の主要な取引先またはその業務執行者
- 上場会社から役員報酬以外に多額の金銭その他の財産を得ているコンサルタント、会計専門家または法律専門家
- 上場会社の主要株主またはその業務執行者
- 上場会社が主要株主である者の業務執行者
- 最近において1〜5に該当していた者
- 就任前10年以内に、親会社の業務執行者・業務執行者でない取締役、親会社の監査役・会計参与、兄弟会社の業務執行者のいずれかであった者
- 上記などに掲げる者(重要でない者を除く)の近親者
「業務執行者」とは、業務執行取締役だけでなく使用人も含む概念とされています。「近親者」は二親等内の親族をいいます。「主要株主」は金融商品取引法第163条第1項の定義によるとされ、議決権の10%以上を保有する株主が該当します。
2026年7月の見直しで何が変わったか
東証は2026年7月3日、少数株主保護に関する上場制度の見直しを公表しました。改正の趣旨は、少数株主保護で中心的な役割を果たす独立社外取締役の独立性・実効性を高めることとされています。
独立性基準については、主に次の点が加わりました。
- 主要株主関係:上場会社の主要株主、主要株主の業務執行者、上場会社が主要株主である者の業務執行者(それぞれ最近該当していた者や近親者を含む)は、独立役員の要件を満たさないものとされました。
- 親会社の監査役・会計参与:過去10年以内に親会社の監査役や会計参与であった人とその近親者も、要件を満たさないものとされました。
- 属性情報の拡充:政策保有株式の関係先(上場会社の株式を政策保有している会社や、上場会社が政策保有している会社)の出身者などは、独立役員届出書での記載が求められます。
属性情報(独立役員届出書に記載する経歴・関係の情報)は、該当しただけで直ちに独立性が否定されるものではないとされています。ただし、該当する場合は届出書で状況と概要の説明が必要です。
適用は、2026年12月1日以後に終了する事業年度に係る定時株主総会の日の翌日以後、順次です。例えば3月決算の会社なら、2027年3月期の定時株主総会の翌日以後が対象になります。見直し前の基準は、2025年4月改訂版の留意事項で確認できます。
判断が分かれやすい論点
「主要な取引先」と「多額の金銭」
東証は、「主要な取引先」や「多額の金銭その他の財産」について、具体的な数値基準を示していません。「主要な取引先」は、上場会社の意思決定に親子会社・関連会社と同程度の影響を与え得る取引関係がある取引先をいうとされています。
実際の線引きは、上場会社が取引の実態に応じて判断します。自社の独立性判断基準の中で、取引額の割合などの目安をあらかじめ定めておくと、判断がぶれにくくなります。
「最近」の考え方
「最近において該当していた」とは、実質的に現在、上記1〜5に該当している者と同視できるような場合を指すとされています。退任からの期間だけで機械的に判断せず、留意事項の解説を確認することが大切です。
コーポレートガバナンス・コードとの関係
2026年7月21日付のコーポレートガバナンス・コードでは、原則4-10で、プライム市場上場会社に独立社外取締役を少なくとも3分の1以上(その他の市場は2名以上)選任すべきとしています。原則4-11では、取引所の独立性基準を踏まえ、独立性を実質面で担保する独立性判断基準を取締役会が策定すべきとしています。
候補者の独立性を確認する手順
実務では、次の順で確認すると漏れを防ぎやすくなります。
- 会社法の社外要件を確認:過去10年の経歴、親会社等との関係、親族関係を確認します。
- 東証の独立性基準を確認:取引関係、専門家としての報酬、主要株主・親会社・兄弟会社との関係を確認します。
- 自社の独立性判断基準を確認:取引額の割合など、自社で定めた数値基準に照らします。
- 属性情報を整理:政策保有株式の関係先の出身でないかなど、届出書に記載が必要な事項を洗い出します。
- 届出書を準備:株主総会で独立役員の構成が変わる場合は、原則として総会の2週間前までに独立役員届出書を提出するとされています。
候補者本人に確認する際は、勤務先だけでなく、親族の勤務先や、兼任している他社の取引関係も聞き取ります。他社での役職が多い候補者は確認範囲も広がるため、社外取締役の兼任数の目安もあわせて確認しておくと安心です。
判断に迷うケースは、顧問弁護士などの専門家や東証に確認することをおすすめします。
まとめ
社外取締役の「社外性」は会社法、「独立性」は東証の基準で判断します。東証の基準は取引先や主要株主との関係まで見るため、会社法の要件より確認範囲が広くなります。
2026年7月の見直しでは、主要株主関係や親会社の監査役・会計参与経験が独立性基準に加わりました。3月決算の会社では2027年の定時株主総会後から適用されるため、次回の改選に向けて、現任者と候補者の両方を新しい基準で点検しておくことが大切です。
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